子どもの主体性と職員の働きやすさを育む『下の町乳児保育園』の取り組みと想い

社会福祉法人つくし福祉会が1975年に岡山県倉敷市児島で開設した『下の町乳児保育園』は、生後57日目から2歳児までを対象とした乳児保育園。
広く開放的な遊戯室やランチルームを備え、家庭的なぬくもりあふれる雰囲気が魅力です。2022年につくし福祉会とキャレオスグループが連携したことをきっかけに、同園もキャレオスが事業承継しました。
この連携を機に、つくし福祉会は新たな理念を策定。開設51年目を迎えた下の町乳児保育園はその理念をもとに、子どもたちの主体性を育み、職員も働きやすい保育園へと進化しています。
半世紀にわたって大切にしてきた想いと、時代に合わせて挑戦している取り組みについて、三浦能子園長先生にお話を伺いました。

〈三浦能子先生 Profile〉 長崎県・対馬出身。保育士資格取得のため倉敷市へ。下の町乳児保育園に入職して29年目、園長を務めて19年目を迎える。現在は保護者や職員の中にも教え子がいるなど、長年にわたり地域の子育てを支え続けている。
【三浦園長先生インタビュー】
子どもたちの力を信じる保育へ

つくし福祉会が新たに保育理念として加えたのが、「子ども同士が自ら学び、考え、行動する力を信じ、その力を発揮できる環境を用意する」という考え方です。
以前の下の町乳児保育園では、園児が転べばすぐに保育士が駆け寄って起こしていました。しかし現在は新しい理念に基づき、あえて先回りのサポートを控えています。すると、子どもたちの行動に変化が現れ始めたんです。
誰かが転んだら、近くにいる子が助けに行く。靴や帽子が脱げたら、子ども同士で直すのを手伝う。そんな頼もしい姿が多く見られるようになりました。大人がすぐに手を差し伸べるのではなく、見守ることで、子どもたちの行動力や思いやりの心が育まれているのを実感しています。
職員の働きやすさも大切に

「職場環境の創造」も、改めて事業理念として明確に掲げるようになりました。職員が安心して楽しく働ける環境づくりは、私が園長に就任した当初から一貫して取り組んできたテーマです。
現在、保育士や栄養士・調理師、事務員を合わせて職員数は25名。子育て中や介護中の職員も多く、それぞれの事情に合わせて柔軟に働ける体制を整えています。状況に応じて当番業務を分担したり、クラスのリーダーを入れ替えたりしています。
また、LINE WORKSなどのデジタルツールを積極的に活用。フレキシブルな勤務体系の中でも、円滑にコミュニケーションが取れるよう工夫しています。
何でも相談できる職場づくり

下の町乳児保育園では主任と職員の個別ミーティングを3カ月に1度実施し、困りごとの相談や次の目標設定を行っています。悩みを抱えている職員には、私が直接話を聞くようにしています。
子育てや介護の悩みは、職場ではなかなか打ち明けづらいもの。だから「最近どう?」とこちらから声をかけ、相談しやすい雰囲気づくりを心がけています。
また、職員の誕生日には、他の職員がその人の良いところを一言ずつ書いたメッセージを贈っています。お互いの長所を言葉にすることで心の距離が縮まり、信頼関係を築くきっかけにもなっています。
10年、20年と長く勤務している職員も多く、人間関係が良好な職場だからこそ長く働き続けてもらえているのではないかと感じています。
先生がイライラしていると、子どもたちは大人の顔色をうかがうようになってしまいます。反対に、先生が笑顔でいると、子どもたちも笑顔でのびのび過ごせる。園児のためにも、風通しのよい職場でありたいですね。
「みんなで食べる」という食育

発達段階に応じた離乳食をこまやかに用意していることも、当園の特徴の一つです。近年は、食育に一層力を入れています。
核家族化や共働き家庭の増加により、子どもが一人で食事をする「孤食」が増えている現代。そこで2025年に、ランチルームを改装しました。広々とした空間で、全クラスの園児と職員が一緒に昼食をとっています。
先生も子どもたちと給食を囲むことにより、食事作法の指導に介入しすぎる場面が減りました。「食事の時間は楽しいもの」という感覚が子どもたちの中に芽生えるとともに、自分で食べる力の育成にもつながっています。
愛情深いまなざしで親子をサポート

開園から50年以上変わらないのが、子どもたちはもちろん、保護者の皆さまとも親身に関わる姿勢です。お迎えの際には、担任かどうかに関わらず「今日はこんなことをして遊びましたよ」「こんなことができるようになりましたよ」と、その日の様子や成長を伝えるようにしています。
保護者の方々からは「先生たちがいつも我が子の名前を呼んでくれる」「どの先生も必ず挨拶してくれる」といった声をいただきます。私たちにとっては当たり前の行動ですが、その積み重ねが評価されていることをうれしく思います。これからも「当たり前」を続けていきたいですね。
また、意見を一方的に押し付けないことも心がけています。否定せずに話を聞き、子育てのアドバイスも「園ではこんなふうにしていますよ」と、あくまで提案として伝えるようにしています。
下の町乳児保育園は、3歳を迎えて卒園となります。上のお子さんが卒園して別の保育園や幼稚園へ通うようになっても、下のお子さんを引き続き下の町乳児保育園に預けてくださるご家庭も多いんです。
保護者の方にとって、2カ所に送り迎えするのは大きな負担です。それでも当園を選び続けていただけるのは、先生たちが日々、誠実に向き合ってきたことの証なのだと思います。
想いを守りながら、進化する保育と働き方

「この保育園で大切にされていた」という記憶が、子どもたちの人生の支えになってほしい。その想いは、これからも決して変わることはありません。
自分に否定的な考えを抱くのではなく、「ありのままの自分でいいんだ」と思える人に育ってほしい。そのためには、自ら考えて行動し、困難を乗り越えたという自信を持つことが必要だと考えています。
これからも下の町乳児保育園が、子どもたちの生きる力を育む場でありたい。私たちも新しいことに挑戦しながら、子どもと保護者、職員にとって居心地のよい園をつくっていきたいですね。

【取材を終えて…】
愛情たっぷりの関わり方や、温かく包み込むような雰囲気は守りつつ、保育の方法や働き方は時代に合わせてアップデートしていく。その結果、子どもたちの自主性や豊かな心が育まれている下の町乳児保育園。これからも地域にとって、なくてはならない存在であり続けることでしょう。